前回は抗体の話について書いてみた。今回は、PCRの件について話してみようと思う。

えっここでPCRの話?

  • なぜ、かと言われると、筆者自身がPCRの経験があるから一応、少しご意見できるかもしれません。筆者は鍼灸師の資格はありますが、資格を取る前は大学でサイエンス系の研究をしていました。ですので、ある程度理解できるんです。
  • PCRはもうすでに本当に多くの人々の間に膾炙していったものだなあとしみじみ感じる。もし今回の新型コロナウイルスの流行がなければ、PCRはそれほど有名にならなかったかもしれない。もしかして今年の流行語大賞にPCRが選ばれるなんてこともあったりするのでは?と思ったりします。

PCRとは何か

  • PCR、すごくルーチンだったので細部まで覚えています。英語の略語ですし、英語ではpolymerase chain reactionの意味です。和訳しても意味がいまいちかもしれないので、どんなものか少し簡単に話してみます。

遺伝情報について

  • 遺伝情報は4種類の塩基から構成される、なんて話を聞いたことのある方はおられますか?最近、高校の生物の本を本屋で見る機会があったので、見てみたのですが、高校一年生で習う内容に必修化されていたのです。文系でもセンター試験受けるのなら、覚えないといけない。ですから、もうこれからの時代は常識なのかもしれません。すでに、アメリカでは高校では「遺伝学」なる専門性を感じるような科目を必修化しているらしいという話を聞きました。
  • 生物の遺伝情報というのは、貫通する穴のあるボール(塩基)とすれば、ボールの穴に長い糸を通して、連連とつないでいったものというイメージなのです。この長い塩基の配列が2本、絡み合ってできるのがDNAと言われるものです。ほとんどの生物はDNAを持ちます。ヒトの場合だったら、30億個ぐらいの塩基が1本の糸に通されているのです。それが2つ、セットで絡み合っているのです。
  • 塩基は4種類あると書きましたが、A、T、C、Gがあります。ここで考えていただきたいのですが塩基が5つ並ぶとすれば、何パターンぐらいあるかということ。
  • Aの後にA、T、C、Gが来ることができるので4を掛ける…などというふうに考えると、4の5乗となります。だいたい、4×4×4×4×4=1,000パターンぐらいあるということになります。これが10個となれば、100万パターン、15個となれば10億パターン、20個となれば1兆パターンあるのです。

再びPCRとは何か

  • 少し話が基礎的なところに入り組んでしまいましたが、何が言いたかったのかというと、塩基の配列は指紋のようなものとなりうるということです。先述のように塩基配列はほとんどランダムに並んでいるのですが、例えばコウモリAとコウモリBとではほとんど同じ配列を持つ(違いは1%もない)とか、ブタとブタ同士でも、ヒトとヒト同士でも同じことが言える。当然、ブタとヒトなど異種同士ではかなり違います。
  • そして、ウイルスとウイルス同士でも同じことが言える。
  • PCRは指紋を照合するものと考えていただければわかるかと思います。先述のように、20個だけでも1兆もあるのですから、20個となればもうほとんどまぐれで一致することはありえないというレベルです。
  • PCRを行う上で必要となるツールがあります(プライマーといいます)。要は塩基配列を複製する役割を担う物質です。ただし、条件があります。
  • プライマー自身も、塩基配列が糸でつながったものなんです。そして、プライマー自身と全く同じ塩基配列がDNAの中に含まれていたら、どんどん増えるというものなんです(詳しくは話すると、長くなりますので要はそういうことだと理解いただければと思います。そもそも、「同じ」という表現も厳密には「相補的」ですから)。
  • プライマーを試験したいサンプル(コロナウイルスが含まれているかもしれない喉の粘液)の中に放り込みます。サンプルが、その配列を持っていれば(コロナウイルスが存在すれば)、どんどんその配列が増えます。そして、検査にかけたら強いシグナルを発生させて陽性となるわけです。

PCRはどれぐらい敷居が高いのか

  • 結論から言うと、簡単です。米国ではすでに500万件近く行われています。
  • 金銭面での話からすると、PCRのためのプライマー設計などは、公共のデータベースを検索するのですが、誰でも無料でできる。また、その結果、プライマーの配列(大体20塩基ぐらい、例えばGCAACTACCGT...などというふうに)を自分で決めるんですが、その後はプライマーを作らないといけない。普通の人には設備などがないので無理。ただ、これも業者が沢山いてて、それらの業者に配列をオンラインで打ち込んで、申請すれば、プライマーが工場で合成されて、発注者のもとに届くようになっています。そんなに日にちもかかりません。価格も、10,000円超えない程度の量から承っている。
  • 技術面での話からすると、少し熟練は必要です。まず、生体サンプルを取らないといけませんが、遺伝情報がある細胞を含んだものなら何でもいい。私は、マウスの耳を出血がない程度に少し切り取って、検査をしていました。1ミリ程度の皮膚片でも検査できます。マウスの血統や遺伝子の有無を調べるためです。ただ、それも今回のコロナに関しては、粘膜上の粘液を取るという比較的かんたんな作業になると思います。ただ、取り方自体は、統一された取り方をしないと、陽性になりにくいかもしれません。また、取る量も少なくしてうまくやれるというテクニックも必要になるかもしれない。ですが、大学などである程度PCRをこなしている学生や研究者や民間の業者なら、コロナのPCRはできないことはないと思います。医療の現場では、臨床検査技師がやっておられると聞いています。彼らはPCRのプロと聞いています。どちらにしても、PCRを遂行できる人は多いわけです。
  • 時間面での話になると、これは少し簡単に述べますが、だいたい数時間で終わります。ですが、これは本当にありがたいと思います。PCRが編み出されたのは、わずか数十年前です。それどころか、編み出された当初の方法でやると、PCR(コロナが陽性がどうかを判断)を遂行するためには数週間ぐらいかかったんです。今の時代に生まれたことをありがたく思いたいと感じます。サンプルを60℃にしたり、90℃にしたり、など温度を上げ下げするのを何回もやらないといけないんですが、機械でやってくれるんです。
  • 問題点としては、微生物を検査するということで、BSL(バイオセーフティーレベル)を意識しないといけないということですね。また、実験をするにしても、実験計画などを機関に報告したりとかしないといけないので、少しやりにくい。違反したら役所からツッコミが入る。

なぜPCRを増やせないのか気になっている

  • 筆者個人的な考えですが、日本はPCRをやりたがりませんが、これは大きな問題があると思います。それに加え、PCRを行うなら、保険適用外で5万円必要になると言っています。これでは、陽性者数が増えるわけがありません。アメリカでは、40万円超えると言われていましたが、移民などに対しても無料になりました。これはすごいことだと思います。日本も無料にすべきです。ただ、陽性の場合は命令に従ってもらうなどの条件付きですね。
  • 銃後というたら少し変かもしれませんが、医療従事者だけでなく、PCRができる研究者や民間の業者などはたくさんいるわけです。彼らにも協力をお願いすべきではないかと思います。彼らも、ちゃんと実験は熟練度を上げた人たちは一定数いるはずです。感染防止のルールなども彼らには教えたら正しく理解して遂行してもらえるはずなんです。実際、クリーンベンチの使い方もちゃんと理解しているわけで。
  • 実際、医療従事者はメーカーが作った医療品でないと使わない、というきらいはあると思うんですが、今回は雨合羽や誰がハサミを入れて作ったかわからないようなガウン(ゴミ袋から作った)を医療現場に送っているという状況です。それを使って余儀なくPCR検査している技師も多いのではと思います。

これから

  • 日本は先進国の中でも最低の検査率だと言われています。それはやはり真実と向き合わないと言われても仕方ないと思います。日本では臨時のプレハブ病棟は聞きませんが、ホテルなど療養先は数万と用意しているのですから、もっと検査をしないといけないと思う。
  • 感染者が野放しにされていると言っても過言ではありません。いくら共生を考えないと、と言われていても我々は検査をしてもらえなく、かなり不安を感じています。そして、外国ではすでに進んでいる、マスクの義務化、ソーシャル・ディスタンスの義務化、感染者の行動把握などは日本の現行法では困難だと言われています。それに加え、検査自体を拒否ばかりされるのですから。感染者が野放しにされて、一番不安を感じるのは医療従事者ではないかと思う。
  • 柔道整復師、鍼灸師は患者との濃厚接触を避けられない職業なのですから、とても不安です。患者様との相互理解、信頼によって進めていくしかない。
  • 日本が具体的な対策を示せないでいるのは、単刀直入に言って感染状況を把握できていないからである。感染状況を把握できないのであれば、経済対策などありとあらゆる国主導の対策もできないと思う。
  • PCRを医療従事者のみでなく、民間の業者や大学などにお願いして、もし彼らの数%が検査中に感染したとしても、それに比べて「膨大な陽性患者を健康な人から隔離する」「どれだけの人が陽性なのかデータを集計する」ことができれば、得るもののほうが大きいかもしれません。そうしないと、政府は「今後どうするか」などの具体的な対策を示せないと思います。もちろん、検査に携わる方に対しては民間や大学などであっても危険手当を出してモチベーションを上げていただければと思ったりする。そのために、お金を使っていただきたいと思うばかりです。然るべき人物たちに対して危険手当が出ないので、日本では医療従事者の退職が多くなり、医療崩壊しているとも言われています。こういう面で日本は少し残念な国であると感じているこの頃です。